FIA F3のステアリング解説(ダラーラF3 2019)

投稿日:2020.07.26

初回から初心者向けなのか、レースファン向けなのかよくわからない内容になってしまったノバ夫です。ま、ある程度理解できる人向けでいいかなと思い、とくに今回も個別の用語解説はしておりません(わからない単語があったら検索してみよう)。で、2回目はレース車両に欠かせない……というか市販車でも完全自動運転の時代が来るまでは、絶対に必要なステアリング・ホイール(ハンドルのことね)のお話。その前に今回紹介するステアリングはF3というカテゴリーのものなので、そちらについて少々触れておく。

GP3とF3ヨーロピアンが合併して”FIA F3″が誕生↑写真は旧F3規定車両(戸田レーシング)

↓写真は現行のF3規定車両(ハイテック)F1というフォーミュラの最高峰があってその下にあるのがF2、F3というカテゴリー。2018年までF3規格でF3ヨーロピアン、そして全日本F3選手権というふたつのシリーズが存在した。それが2019年から、公式戦はほぼF1と併催されていたGP3というカテゴリーと前述のF3ヨーロピアンが合併して“FIA F3″というカテゴリーへ一本化された。その経緯についてはかなり複雑なのでここでは省略。2018年までの旧F3規定の車両(↑写真戸田レーシング)がダラーラF317系と呼ばれる(日本国内のみ全日本F3という名称と旧F3規定を2019年まで使用)。2019年にデビューした新F3車両(↑写真ハイテック)も同じくダラーラ社製。公表されているシャシー名称は「F3 2019」。本来は新規GP3車両として予定されていたため、ダラーラ社内のコードネームはG319(以降、本項ではG319の呼称で統一)。

ステアリングもXAPテクノロジー社製へ変更↑が旧F3車両のステアリング(ボッシュ社製/B-Max Racing)

↓が新F3車両のステアリング(XAPテクノロジー社製/プレマ)

新旧のステアリング写真を比較すると、液晶画面の大きさやダイヤル式スイッチの有無など違いは一目瞭然。G319のステアリングはフランスのXAPテクノロジー社製。G319専用ということではなく兄弟シリーズのFIA F2やフォーミュラe、フォーミュラ・ルノーでも使用されており、F1のようにワンオフではなく汎用性の高い製品のようだ。ボッシュ社製のように、テニスのグリップテープがステアリングのグリップ部分に巻かれているのが一般的。

↓新F3車両のステアリング”背面”(XAPテクノロジー社製/ハイテック)背面で操作するのは左右にある計6枚のパドル。その見た目から”バタフライ(蝶)”とも呼ばれることも。市販車とは異なり短時間での脱着が可能で、黄色の丸い穴が開いている箇所を引きながら抜くと容易に取り外しが可能。

ステアリングスイッチの役割(表面)①~⑩※注 ステアリングはプレマの一例。ボタン数やダイヤルの設置箇所はカスタマイズが可能なためチームによって異なる場合あり

①RAIN:レインライト(テールランプ)を点滅させるボタン。雨天時のフォーミュラカーは視界が非常に悪く、後続車へ存在を知らせるためのランプ。

写真(左)中央の四角い箇所がテールランプ。写真(右)がウエット路面での点灯時イメージ(写真のマシンは旧F3規定なので、ランプ形状が逆三角形になっている)

②VSC:バーチャル・セーフティーカー提示時に使用。コース上へセーフティーカーを出動させるほどのアクシデントではないが、黄旗提示のみではドライバーへの注意喚起が不十分なケースで、レースコントロールからコース上のマシンへ減速して一定速度で走るよう出される安全上の指示がVSC。レース中にVSCが提示されると↓写真にある左右それぞれのLED(矢印の箇所)が点滅してドライバーへ知らせる。

③+-:ステアリング中央の液晶画面の切り替えボタン。通常はギヤポジション(何速で走っているか)やエンジンの回転数といった情報が表示されているが、ブレーキバランスなどを表示される画面もある際に使用する。

④FUEL:F1ではレース距離が305kmとなっており、さらに使用できる燃料量が決まっているためダイヤルで設定していることが多い。F3はだいたい約30分ほどのレース時間でセーフティーカー(SC)出動率も多いため、それほど燃料量を気にする必要はない。ただ、稀にあるSC出動がないレースなどで燃料をセーブ、その逆にSC先導の周回が多いレースで燃料が余っている場合。それぞれのケースで③にあるディスプレイを変更し、燃料量の調整(おそらくダイヤルのように1~10ぐらいまでのモードがあるのでは?)を行うのがこのボタンだと思われる。

⑤R:リバースギア。通常のシフトアップダウンはステアリング背面のパドルで行う。そもそも、レーシングカーはリバースギアを使用する場面はほぼない(コースアウト時など)。

⑥THROTTLE MAP:スロットルマップの調整ダイヤル。10段階あり、予選モードやスタート、雨天時など状況に応じたスロットルマップのダイヤルへ切り替える。

⑦CLUTCH MAP:クラッチマップの調整ダイヤル。スロットルマップ同様にスタート時やピットイン時など、路面状況に応じて最適なバイトポイントをドライバーが調節する。ステアリング背面にクラッチパドルがあるので、それと連動して使用。なおCLUTCH MAPの右横にある、周囲に何も書かれていない赤いダイヤルはプレマでは未使用。

⑧PIT:ピットレーン走行時のスピードリミッターボタン。コース上からピットレーン進入前に押して起動。ピットレーンを出て、コースへ合流する際に再度押すと解除される。

⑨Radio:走行中にピットと無線交信時に使用する。

⑩START:スタート練習ボタン。ピットレーン出口でのスタート練習時に使用。このボタンを押すと液晶画面中央にスタートシグナル同様「●●●●●」と5つのレッドライトが左から順に表示された後に全消灯。それに合わせてスタート練習(クラッチ操作含む)を行う。

ステアリングスイッチの役割(背面)⑪~⑭※↑写真のステアリングはハイテック。背面は基本的にどのチームも同じ構成になっていると思われる。

⑪DRSパドル:DRSとはドラッグ・リダクション・システムの略で、後述する区間でパドルを押すとリアウイングが開き、ストレートスピードが増す機構。日本語では「空気抵抗低減装置」といった意味になるか!? サーキット毎に使用できる一部区間(基本的にストレート)が設定されており、レース中は前方を走るマシンとの差が1秒以内の場合にのみ使用できる。DRS区間の前に前車との計測ポイントがある。スタートやリスタート直後など、ほぼ全車が接近した状態など一部条件下では使用不可。↓写真は閉じた状態のリヤウイング。DRS作動時は「BRUTSCHIN」の部分(フラップ)が可動する。

⑫シフトアップパドル:押すとシフトアップ。

⑬シフトダウンパドル:押すとシフトダウン。現在では市販車でもおなじみのパドルシフト。

⑭クラッチパドル:足元にクラッチペダルはないのでスタート時などはこのクラッチパドルを使用する。左右両側についているがどちらも用途は同じ。

左上から時計回りにハイテック、ART、トライデントのステアリング。上で紹介したプレマとはボタン位置などが微妙に異なっている。ハイテックはダイヤルをプレマ同様に2つしか使用していないが、ARTとトライデントには目盛りがあるので、3つすべてのダイヤルに操作系を割り当てているようだ。市販されているステアリングながら、チーム(ドライバー?)によって違いがあるのはおもしろい。写真右下のカンポスのように使用しない際はケースに入れられて保管。

F3クラスのドライバーでもレース中にスロットル、ブレーキ操作以外にもステアリングで様々な調整(確認)をしなければいけないことがわかっていただけただろうか。

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