紅の牛

投稿日:2020.08.11

先日、フォーミュラeのシーズン6が閉幕。それも9日間に6戦を強行したオーガナイザーに感服したノバ夫です。

前回に引き続きF1チームの育成プログラムについてを。それぞれのプログラムの特色、育成方針などを薄っぺらい知識で書いてみた。今回はレッドブル・ジュニアチームの特集。イギリス・シルバーストンで行われた「F1 70周年記念GP」で今季初優勝を挙げたマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)もレッドブル・ジュニア出身。

 

レッドブル・ジュニアドライバー(F2/F3/SF参戦者のみ) ※2020/08/14現在

文字を読むのが苦手な人やDAZNでF2やF3をたまーに見る人向けに、まずは現在のレッドブル・ジュニアドライバーの一覧を。一部のドライバー写真はありませんがあしからず。

 

ユーリ・ヴィップス(SUPER FORMULA/フォーミュラ・リージョナル・ヨーロッパ(FREC))リトアニア国籍で2018年にレッドブル・ジュニアへ加入。今季は国内のSUPER FORMULAに無限から参戦予定。ただし08/14現在、SUPER FORMULAへの出走はコロナ禍の情勢で不透明。そのため格下のカテゴリーではあるが、ヨーロッパのみで行われるため移動が容易なFREC(KICモータースポーツ)へもエントリーしている。

※今季はFRECのみの参戦となる可能性あり

 

角田裕毅(FIA F2)日本人のレッドブル・ジュニアドライバーは今季F2(カーリン)へステップアップ。2018年のFIA F4(日本)チャンピオン。昨年はF3(1勝でランク9位)と並行参戦したユーロ・フォーミュラ・オープン(EFO)。ウィンターシリーズのトヨタ・レーシング・シリーズ(TRS)でともにランク4位。これらの成績でスーパーライセンスポイント(SLP)を計17点獲得。今季F2でランク4位以上であれば、F1の予選・決勝へ出走可能なSLP40点以上を得ることができる。

 

 

ジェイハン・ダルバラ(FIA F2)今季からレッドブル・ジュニアへ加入したダルバラ。過去3年間はF3へ参戦して通算4勝を挙げる。キャリアベストはプレマからエントリーした昨年の年間ランク3位。今年はF3時代に2年在籍した古巣のカーリンからFIA F2へ参戦しており、前述した角田裕毅のチームメイトでもある。ナレイン・カーティケヤン以来、インド国籍ではおそらく2人目となるレッドブル・ジュニアドライバー。

 

リアム・ローソン(FIA F3)

2019年にTRSでマーカス・アームストロングとのマッチレースの末、僅差でチャンピオンを獲得。その直後にレッドブル・ジュニアへ加入。F3(MPモータースポーツ)初年度の昨年は2勝してランク4位。角田同様にモトパークからF3と並行参戦したEFOはランク2位。今季はMPからハイテックへ移籍してF3へ継続参戦している。

 

デニス・ハウガー(FIA F3)ノルウェー出身で17歳のハウガーは2018年のイギリスF4で4輪デビュー。昨年はADAC F4、イタリアF4へフルエントリー(計41レース)。ADACでランク2位、イタリアではチャンピオンという好結果を残した。今季はF3へステップアップし、ローソンのチームメイトとしてハイテックから参戦中。

 

ジャック・ドゥーハン(FIA F3) 2輪で5度の世界チャンピオンを獲得したミック・ドゥーハンの息子。過去2年間にEFO、アジアンF3やウィンターシリーズのMRFチャレンジと様々なカテゴリーを走っているが、これまでタイトル獲得実績はなし。今季はF3にHWAレースラボから参戦しているが、いまだノーポイント(10戦終了時点)。

 

イゴール・フラガ(FIA F3) ウィンターシリーズのTRSで本命ローソンの2連覇を阻止してチャンピオン。その結果が認められてか、今季からレッドブル・ジュニアへ加入。フラガはブラジル国籍だが日本生まれ。またグランツーリスモの世界チャンピオンなので、eスポーツ界隈でも名の知れたドライバーだ。昨年参戦したFRECを除き、4輪キャリアのほとんどがブラジルF3やNACAM F4、USF2000など南北アメリカ大陸のレースカテゴリー。今季はチャロウズでF3を戦っている。

 

上記以外にもレッドブル・ジュニアにはジョニー・エドガージャック・クロフォードがいる。彼らは現在、VARからADAC F4とイタリアF4へエントリーしており、来季のF3昇格を目指す。

 

レッドブルが求めるドライバー像

ヘルムート・マルコ(元F1ドライバー)が実質的にドライバーを選択する権限を有しているレッドブル・ジュニア。最初の成功例はセバスチャン・ベッテル(現フェラーリ)。F1のレッドブルまで昇格を果たし、4度の世界タイトルを獲得した。ベッテルがF1で成功後はそれと同等または、さらに上回る才能をもったドライバーを求める傾向がある(現在であればフェルスタッペンクラスが指標か)。外野から見ていると、淡々とレースを戦ってコンスタントに上位入賞するようなコンサバなドライバーではなく、多少荒削りでも突出して速くオーバーテイク時の思い切りがいいタイプのドライバーを好むようだ。ただし、一度レッドブルに選ばれたからといって彼らも安泰ではない。目標設定された成績を下位カテゴリーで残せなければ、シーズン途中であっても即刻サポートが打ち切られる非情さも。それ故に”元”レッドブル・ジュニアの肩書きのドライバー(放出者、離脱者のOB)は、他の育成プログラムと比較しても多いイメージ。F1昇格後も育成ドライバー間で”競争”させることが可能なのも、実質的に2チームを保有(一軍のレッドブルと二軍のアルファタウリ)しているレッドブルならでは。成績によって内部昇格及び降格(一軍と二軍の入れ替え)が行われるため、F1昇格後もドライバーは気を抜けない環境におかれるのだ。近年ではSUPER FORMULAまでステップアップしながら、成績が伸び悩み2019年シーズン途中でレッドブル・ジュニアを放出されたダン・ティックタム。2018年にF3のタイトルを逃しランク2位だったことも要因のひとつか!?

 

常勝チームへドライバーを乗せない厳しさ

従来の自動車メーカー主体の育成プログラムで常識だったのは、勝てるチームに育成ドライバーを乗せてタイトルを獲らせ、徐々にステップアップさせていくやり方。しかしレッドブル・ジュニアは常勝チームではなく、チーム力としては”そこそこ”のところへ育成ドライバーを派遣する傾向がみられる。例えば今季のF2、F3では計6人のドライバーを派遣しているが、所属チームの内訳をみるとF2の2人はカーリン(過去2年で2勝のみ)。F3の4人にいたっては、すべて2019年からFIA F3へ新規参入した3チーム(ハイテック、HWAレースラボ、チャロウズ)といずれも中堅どころ。過去を振り返ってみても、ベッテルがタイトル争いをした2006年のF3ユーロシリーズ(ランク2位)こそ、ASMという当時の有力チームでドライブしているものの、ルーキーイヤーの2005年はミュッケからの出走。フェルスタッペンも2014年のヨーロピアンF3時代に所属していたのはVARだった(ミュッケ、VARとも中堅チーム)。常勝チームへ派遣しない理由のひとつは先にも書いたが、レッドブル・ジュニアが求めるドライバーの理想が非常に高いことが挙げられる。勝って当たり前の環境でレースをさせるのではなく、多少劣った環境でもドライバー自身の能力でカバーして勝ってみせろというのが、レッドブル・ジュニアの方針なのだろう。

中堅チームに所属するとスタート時のグリッドも中段からになることが多々ある。すると前方にいるマシンを追い抜く際に、ドライバーの速さと判断力(オーバーテイクやタイヤマネージメント)が重視される。そうした他車とのバトルが多い環境下でも、上位へ進出する能力がドライバーにあるかをレッドブルが見定めているのかもしれない。つまり戦闘力の高いチームへ派遣して、毎レースグリッド前方からスタート。そのままトップを八分の力で走るレースをジュニア・フォーミュラ時代にさせても、何の意味もないとレッドブルは考えているようだ。それよりもレッドブルとしては、仮に後方へ大差をつけトップを独走していても、さらにそこからファステストラップを狙ってくるような“ファイター系”のドライバーを育成したい意図があるように感じる。

 

賛否両論の育成方針

ここまでを読むと短期間でも成果が出なければ、容赦なく切り捨てるやり方。常に育成ドライバーを緊張状態にするといった育成方針に対し、批判的に思う人もいるだろう。実際にレッドブル・ジュニアの育成方針については賛否両論あることも事実だ。しかし非情ともいえる厳しさのいっぽうで、過去にレース中に愚行を犯し2年間のライセンス停止のかなり重い処分を受けたドライバー(ティックタム)であっても、才能があると評価すれば迎え入れる懐の深さもあるのがレッドブル・ジュニア。それだけ多くのジュニア・フォーミュラ、KARTのレースをマルコやレッドブル・ジュニアの育成担当者が見ている証かもしれない。

F1という頂点のカテゴリーで勝てるドライバーを求めるのであれば、レッドブル・ジュニアは厳しくとも理にかなったやり方なのだろう。結果的にベッテルやフェルスタッペン、ダニエル・リカルドといったF1で勝てるドライバーを輩出した実績があるのだから、育成プログラムとしても成功例だと個人的には思う。

 

近年は”元”レッドブル・ジュニアも再雇用2017年にピエール・ガスリーをスクーデリア・トロ・ロッソでF1へ輩出して以降、スーパーライセンスの獲得条件を満たす育成ドライバーがおらず、やや人材枯渇気味なのもレッドブル・ジュニアの実情。そこで一度は放出、またはドライバー側の事情でレッドブル・ジュニアを離れた人材を”再雇用”する動きもある。まずは2017年F1のシーズン終盤に放出したダニル・クビアトを、2年後に再びトロ・ロッソのレギュラードライバーとして抜擢した。

写真(左)のレッドブル・ジュニアを一度は離脱したアレクサンダー・アルボン。2019年には急きょ、ニッサンからトロ・ロッソへ引き抜かれF1デビューを果たした。現在はレッドブルへ昇格してフェルスタッペンのチームメートである。写真(右)のセルジオ-セッテ・カマラもF3時代に一時、レッドブル・ジュニアへの在籍経験がある。その後はF2でランク4位となるなど、スーパーライセンス取得条件を満たしたこともあり(過去3年間でSLP40点以上獲得)、レッドブルと再契約。セバスチャン・ブエミとともにレッドブル、アルファタウリのリザーブドライバーを務める。なおセッテ・カマラは今季、日本のSUPER FORMULA(以下SF)へもB-Maxから参戦予定だ。

※セッテ・カマラのSUPER FORMULA参戦もヴィップス同様、コロナ禍で各国の入国制限などにより流動的

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